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薬草園歳時記(7)鬱金(ウコン)と生姜(ショウガ)の四季 2021年9月


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鬱金の花(左)と生姜の葉(右)(薬草園提供)

 「鬱金の花」は初秋の季語である。「きぞめぐさ」の傍題がある。歳時記には、ショウガ科ウコン属の熱帯性多年草。初秋、水芭蕉に似た大きな葉に囲まれて花茎を伸ばし、その先端に漏斗状の白い花を多数咲かせる。根は肝臓に効くとされる。という解説が付いている。
 「生」姜は三秋の季語で、薑(キョウ)、葉生姜、くれのはじかみなどの傍題がある。歳時記には、ショウガ科の多年草。秋、淡黄色で多肉の根茎が大きくなり、それを収穫する。生食?香辛料?薬味などの食用になる。と解説がある。
 また、「新生姜」は晩夏の季語で、8月ころに掘った若い根を食用とし、香りが高く辛味も強いとある。
 さらに、「ジンジャーの花」という初秋の季語がある。ショウガ科シュクシャ属のインド原産の多年草で、細長い葉を持ち、初秋、茎の先端に芳香を持つ白い大きな花を咲かせる。一日花ではあるが次々に花を咲かせる。オレンジ色の花もある。園芸植物で、「縮砂(シュクシャ)」もしくは「花縮砂(ハナシュクシャ)」とも呼ばれる。江戸時代に日本に持ち込まれた。暖地の湿り気のある地域で栽培する。沖縄など南西諸島で多く栽培される。

山墓に薄暑の花の鬱金かな   飯田蛇笏

 ウコン(Curcuma longa )は、鬱金、欝金、宇金、玉金の漢字を持つ。また、秋ウコンとも呼ばれる。それは秋(夏~秋)に花が咲くので、他のウコン属(Curcuma)の種と区別し易いようにそう呼んでいる。ショウガ科ウコン属(Curcuma)の多年草で、インドが原産、紀元前からインドで栽培されている。「鬱金」の元に意味は「鮮やかな黄金色」で、呉音の「ウッコン」が転訛して「ウコン」となった。英語名は「ターメリック(turmeric)」である。根茎に含まれるクルクミンは、黄色の染料の原料として広く用いられてきた。それに由来する「キゾメグサ」の異名がある。スパイスとしても用いられる。日本では、カレー粉に用いる。カレーの黄金色はウコンの色である。からしや沢庵漬けの色付け、繊維染料として黄袋などにも用いる。主要成分はクルクミンと精油で、利胆と肝保護作用があり、二日酔い対策ドリンクの原料にも用いられる。沖縄では、煎じたウコン茶(うっちん茶)を飲む習慣があり、ティーバッグ形式のもののほか、健康飲料としてペットボトル入りのものもある。二日酔いを防ぐので飲酒の前後に飲まれ、泡盛に入れたりする。居酒屋でウコンのサプリメントが常備されている。このように民間薬として肝炎の治療によく用いられるが、日本薬局方収載の生薬でもある。

ウコンの根茎(左)とウコン類の根茎(右)

 同属別種のウコンがある。
ハルウコン(Curcuma aromatica )
生薬名は姜黄(キョウオウ)で、薬用部分は根茎。春に花が咲くのでハルウコンと名がついた。葉はウコンに似るが葉の裏に細かい毛が生えるのが特徴だ。主用途は健康食品など。黄ウコンやワイルド?ターメリックとも。苦く黄色で、ミネラルや精油成分が豊富。学名のアロマティカ(Curcuma aromatica )は香りが良く、精油成分が多いことからついたのであろう。

ガジュツ
生薬名は莪朮(ガジュツ)で薬用部分は根茎。主用途は中医学漢方などだが、日本薬局方収載の生薬でもある。夏に紫色の花が咲くので夏ウコンとか紫ウコンともよばれることがある。白ウコンとも。ただし、白ウコンは同科ショウガ属のハナショウガ (ランプヤン) を指すこともある。

 本来のウコンは「秋ウコン」または「赤ウコン」ともいう。生薬名は鬱金(ウコン)で、主用途は食材であり、苦みが無くオレンジ色である。
 中国では、日本でのウコンをキョウオウ、日本でのキョウオウをウコンといい、日本と逆になっている。中国から輸入するウコン類生薬は、中国の定義に基づいた名称のものもある。


梅雨深し煮返すものに生姜の香    草間時彦
酢につけて生姜紅さす夕時雨     鈴木真砂女
ジンジャの香夢覚めて妻在らざりき  石田波郷

 ショウガ(Zingiber officinale )は、生姜、生薑、薑(きょう)の漢字を持つ。薑は「強い」という意味で香りが強いショウガの仲間と表している。大陸からミョウガとともに持ち込まれた。その際、香りの強いほうを「兄香(せのか)」、弱いほうを「妹香(めのか)」と呼んだ。これらがショウガ?ミョウガに転訛したとされている。別名はハジカミで、古くはサンショウと同じく「はじかみ」と呼ばれ、区別するために「ふさはじかみ」、「くれのはじかみ」とそれぞれ呼ばれた。
 ショウガ科ショウガ属(Zingiber)の多年草で、熱帯アジア原産で各地で栽培されている。根茎部分は香辛料として食材に、また生薬として利用される。八百屋ではショウガ(生姜)、薬屋ではショウキョウ(生姜)という。インドでは、紀元前 300―500 年以前に保存食や医薬品として使われ、中国では論語の郷党編の中で孔子の食に「はじかみ」の記述がある。日本には 2―3 世紀に中国より伝わり、奈良時代には栽培が始まった。現在の日本薬局方ではショウキョウ(生姜)と乾姜(カンキョウ)が収載される。乾姜(カンキョウ)は日本独自の生薬で、加熱処理して乾燥した根茎。ショウキョウ(生姜)より体を温める作用が強い。
 ショウガは、根生姜、葉生姜、矢生姜などの分類で出荷される。主な栄養成分として、カリウム、亜鉛、銅、マグネシウム、食物繊維を含む。多くの機能性を持つ香り成分や辛味成分は、根茎の皮の近くに多く含まれる。これが肉や魚の臭みと結合して臭い消しの働きをする。鰹の付け合せ、冷奴、素麺、寿司やたたきなどに欠かせない薬味である。魚の臭い消しには皮をむかないで使うと効果がある。
 根に砂糖を加えて煮て、砂糖をまぶした砂糖漬けもある。生姜飴、生姜糖、葛湯、冷やし飴(飴湯)、ジンジャーエール、生姜茶(センガンチャ)などの材料で、甘味と合わせて用いる。風邪のひきはじめ、冷え性には、すりおろしたショウガにハチミツや黒砂糖をお湯に溶かした生姜湯が良い。

シンガポールのボタニックガーデン(撮影は筆者)

 シンガポール植物園(ボタニックガーデン)内にあるジンジャーガーデンには、1000種類以上のジンジャーが展示されており、目を見張るほどの花が咲いている。視覚、嗅覚ともに楽しませてくれるジンジャーの花はデリケートで、ほとんどの種類の花は一日で萎れてしまう。最も美しい姿を見せてくれる時間は、午前中~昼過ぎくらいまでなので、ジンジャー?ガーデンを訪れる際は、早い時刻にまわることが重要である。ボードウォークに沿って様々なジンジャーが咲く。香りゆたかなホワイト?ジンジャー、華やかな形のトーチ?ジンジャーなどが、独特の造形美を見せてくれる。

 このエッセイについて、薬学部附属薬草園の専門員、山本羊一さんに多くの貴重なご意見をいただいた。記して謝意を表する。


尾池 和夫


シンガポールの世界遺産、ボタニックガーデン
https://www.nparks.gov.sg/sbg

薬学部の薬草園サイトはこちらからご覧ください。
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/~yakusou/Botany_home.htm

キャンパスの植物は、食品栄養科学部の下記のサイトでもお楽しみいただけます。
https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/four_seasons/

下記は、大学外のサイトです。
静岡新聞「まんが静岡のDNA」の記事でも薬草園を紹介しました。
https://www.at-s.com/news/article/featured/culture_life/kenritsudai_column/742410.html?lbl=849

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